(9)建造物(詰所、信号所、物置小屋等)の製作、駅本屋の改造

 シーナリーが主として自然景観を再現するのに対して、 建物や鉄道構造物などのストラクチャーは人の存在を表現するわけですから、 シーナリー付きレイアウトに生き生きとした表情を与えるためには、 ストラクチャーの存在がきわめて重要だと思います。そのため、 シーナリー付きの組立て式レイアウトという一種のタブーに挑戦してしまった以上、 ある程度のストラクチャーを作ることも当然ということになりました。
 このレイアウトを作る具体的な計画を立てるずっと前から、 いつかはシーナリー・ストラクチャーの付いたレイアウトをとの希望を持って、 その際に使えそうな部品や完成品を少しずつストックしていました。 それらをやっと活用する機会が訪れたわけです。
 当レイアウト上に配置されている建物や鉄道構造物の多くは、 軽井沢周辺にモデルとなった実物が存在します。ストラクチャーの製作に当たっては、 鉄道関連書籍のみならず一般の書籍や写真集などから昭和30年代の資料をできるだけ集め、 実物が現存しているものについてはその実物を観察し、 現存せず資料もないものについてはおぼろげな記憶と想像力をもとに設計を開始しました。 精密性を追求するのではなく(これは私には技術的にも不可能です)、 プロポーションや色合いなどに注意してもっぱら「雰囲気」を表現することに努めようと考えました。

軽井沢駅構内にあった詰所
また当レイアウトが組立て式のため、運搬・保管時のことを考慮して、 ごく小さな建物以外はすべてレイアウト本体から取り外し可能としました。 鉄道模型を始めてから40年以上経ちますが、これまで固定レイアウトはもちろん、 セクションもまともに作った経験がなく、 ストラクチャーの製作は車両の工作とはかなり違ったもう一つの楽しい世界の発見でした。
 なお詰所、信号所、物置小屋等や給水塔は子供の頃から一緒に鉄道模型を楽しんできた私の兄が、 その芸術的(?)センスを生かして製作したものですので、製作法については彼に書いてもらいました。

1.詰所、信号所、物置小屋等


 当時の建物は残念ながら一部を除いて現存しませんので、 模型化するに当たっては多数の古い実物写真を参考にして、 見えない部分は想像を加え、全体を適当にデフォルメして寸法を決めました。 古いTMSに日本家屋の寸法についての詳しい解説記事がありましたが、 当時の日本家屋のほとんどは1間を単位とした寸法で作られていますので、 写真だけからでもとくに水平方向についてはかなり正確に寸法を割り出すことがでます。 作業に当たっては、 とくに線路との間隔がシビアな信号所以外の建物についてはきちんとした設計図は描かず、 主要寸法を記した簡単なデザイン・スケッチのみで工作を進めました。
 当レイアウトにおける各建物の基本的な構造はほとんど共通で、 エコーモデル製の屋根瓦、真鍮製波板、エッチング製窓桟、STウッド帯板材、 煙突などの小物パーツ、いさみやの方眼ボール紙、 ならびに市販の各種金属製ならびにプラ製アングル・チャンネル、 各種国産・輸入精密木製角材・帯板材(主としてエコーモデルと東急ハンズ渋谷店7Fで購入。 種類も多く、板から正確な寸法で切り出す手間を考えれば値段も高いとは言えません)を適宜使用し、 TMSの過去の製作記事の技法等を参考にして製作しました。 「建築模型」を作るのではありませんから、基本的には実物の建物の「構造」には全くこだわらず、 あくまでも鉄道模型レイアウトのストラクチャーとして、 外観がそれらしく見えれば良いという考え方です。 車両工作と違って全く同じものを2つ作らなくて良いというのも精神的に楽です。
 まず、接着剤や手の脂による塗料の染み込みムラを防ぐため、 すべての木製角材・帯板材は加工前の段階でステイン液を染み込ませました。 これらの部材を切断した場合は、必要に応じて切断面にもステインを染み込ませておきます。
 四方の壁板部分は、カッターナイフで周囲および窓・扉の部分を 所定の寸法に裁断した方眼ボール紙にゴム系接着剤で2mm幅用STウッド帯板材を ていねいに貼り付けてゆきます。(ゴム系接着剤は弾力があること、 はみ出しても乾けばピンセットで容易に取り除けるので多用していますが、 ステイン液には溶けるので注意が必要です。) この時、窓・扉の部分も気にせずにSTウッド帯板材を貼ってしまいます。 これは、長いままで貼った方が歪みが出にくいためです。 全部貼り終わりましたら両端をカットしますが、この時、 組み上げたときに角の部分にボール紙の断面が見えるのを防ぐため、 表面の帯板を台紙のボール紙より若干はみ出すようにカットしておきます。
 窓は引き違い窓を表現するため、 ややもったいない感じですが1組の窓にエコーのエッチング窓桟2組分を使いました。 まず窓桟2組をそれぞれ半分にカットし、2つの窓の端の縦桟が重なるように接着した後、 その周囲4辺に4枚の木製帯板材を接着して窓枠とします。 扉も引き違い戸を表現しますので、基本的には同様な作業です。 窓および扉の窓部分については、 窓枠と窓桟との接着面からはみ出した余分な接着剤は後で窓ガラスを貼るときに邪魔になるため、 内側面もできるだけ取り除いておきます。

 次に壁板の窓枠・扉枠の位置のSTウッドを裏側からカッターナイフで慎重に切り抜き、 こうしてできた穴に、窓桟・扉を組み込み済みの窓枠・扉枠をはめ込んで接着します。 次に、まだばらばらの状態の四枚の壁板の内側の4隅と天井の位置と床の位置で 合計12本の木製3mm角材(または金属アングル・プラアングル)を接着します。 これは建物の強度メンバーというよりはボール紙の壁面の反り防止のためです。 そしてこの角材付壁板4枚を、4隅の突き合いと歪みに注意しながら組み立てました。 模型の組立て方は言わばツーバイフォー式です。
 屋根は、所定の寸法にカットして端面をヤスリで整えた2枚の瓦付き屋根板を、 妻板の壁の上辺の傾斜角に屋根の傾斜角を概ね一致させてゴム系接着剤で仮接着します。 (傾斜角は積雪量など気候等の理由で地域によって大体一定に決まっているようですが、 軽井沢は大した量の雪が降らないせいか傾斜角は東京などと変らないようです。) その後、屋根の傾斜角に合わせた切り抜いた三角形のボール紙2枚を、 それぞれの妻板壁のボール紙の内側にぴったり沿うような屋根裏の位置にアングルを使って接着して 屋根の傾斜角を確定させた後、2枚の屋根の接着面にエポキシ樹脂系接着剤を流して固定し、 屋根の天辺に棟瓦を、その両端に鬼瓦を接着します。 そして完全艶消しの黒色の水性アクリル塗料を全体に塗っておきます。 一部の建物には雨樋をつけました。
 建物の基礎部分は、この時代の建物は外からほとんど見えないものが多くありますが、 基礎部分がむき出しの信号所はバルサ材の厚板を上屋の壁板の内法の大きさにカットした後、 上部を若干残して(この残した部分が上屋にはまります) 周囲に基礎部分として見せるべき高さの幅のボール紙を張り、 これにセメント色を塗っておきます。
 この段階ですでに基本的な着色はされていますから、 言わば昭和初期頃の新築の建物のような感じになっています。 ここからウェザリングとして屋根・建物本体の木の壁面、窓枠・窓桟、基礎部分などすべてに、 錆色・灰色・土色など数色のかなり薄く溶いた完全艶消しの水性アクリル塗料で ニュアンスを出しながら数回塗り重ねてゆきます。 この作業はひたすら全体の彩度を落として古びた感じを表現するためです。 実物の古い木造建物の壁面は建築当初の茶色系の色はほとんど残っていない感じで、 白っぽい灰色かそれにほんの少し紫色が入ったような色をしているように見えます。 塗装を充分乾燥させた後、窓桟および扉の窓部分の裏側から窓ガラス用の透明プラ板を、 接着剤のはみ出しに注意して接着します。

 建物室内はとくに作り込んではいませんが、一応天井と床は作り、 だるまストーブと煙突や事務机・椅子・ロッカーなどのアクセサリーを適宜置いてあります。 また天井には電球を付け、 天井裏から建物の角の柱の裏を通して建物基礎部分まで配線を伸ばしてあるので、 ボードへ配線すれば照明が点灯するようにしてあります。 屋根部分は後日のこれらの工作の便を考えて取り外せるようにしてあります。


2.軽井沢駅本屋の改造



新幹線開業まで使われた駅本屋
 モデルは1997年秋の新幹線開業に伴って 新しい鉄筋コンクリート造りのものに取って代わられるまで使われていた、 明治末建造の木造の旧本屋です。この本屋は2階建てで、軽井沢という土地柄、 待合用の貴賓室が2階部分にあり、 中規模ながらも建築当初は左右シンメトリーの上品なデザインのものでしたが、 昭和40年代のリゾートブームを反映して手狭となったため増築し、 その形態を壊してしまいました。しかしながら由緒ある建物のため新幹線開通まで使用された上、 幸いにも取り壊しを免れ、完成当初の優雅な姿に復元され軽井沢駅北口脇に保存されています。
 模型は1996年に当レイアウト製作中の絶好のタイミングで (株)アプトから発売されたレジン製の完成品を購入し、これを若干改造したものです。 この製品は購入時には20mm以上の厚さのベニヤ製の地面の上にレジン製の本屋の側壁下面が接着してあり、 更に中心部が大きな木ねじで固定してありました。 当初は本屋部分を運転時のみホーム上に設置しようと思っていたため、 まず地面から取り外すことにしました。しかし本屋を地面からはずした途端、 レジン製の側壁が複雑に反って大きく波打ってしまいました。 そのため、地面と本屋を固定して反りを押さえ、 運転時には地面ごと設置する方式を取ることに変更しました。
 まず、ホーム表面の2mm厚のベニヤを、本屋部分を中心に幅600mm、 奥行き160mmにわたって欠き取り、別に2mm厚のベニヤで製作した幅600mm、 奥行き300mm のボード(以下本屋ボード)上に本屋を固定しました。 この本屋ボードは駅前広場の一部を含んでいるため 駅構内ボードの欠き取り部分に納まりきらず140mmほど張り出しますので、 4mm厚のベニヤで足を履かせて基本ボードと高さを合わせています。
 本屋ボード上のホーム部分は他のボード上のホーム部分と同様 コンクリートタイルを表現したプラ板を貼り、 本屋ボードの表面全体をストーン調塗料で着色しました。 本屋ボードと本屋は接着剤で固定すると内装工事ができないので本屋の中心部をねじ止めとし、 側壁部分は本屋ボード上に接着剤で固定したチャンネルにはまり込むようにして できるだけ側壁の反りを矯正するようにしました。


 本屋自体の改造は、まず昭和30年代の状態に戻すため、 正面入り口左側の三角形の見苦しい増築部分を原形へ復帰させることから取り掛かりました。 増築部分を撤去しても幸い原形の側壁は取付けてありましたので、 必要な窓をカッターで開け、窓枠はペーパーで作り窓桟は側面の目立たないところから移設しました。 また増築部分を撤去した部分には正面入り口から繋がる庇をプラ板で追加しました。室内については、 2階部分の床板が省略され1階が丸見えでしたのでボール紙で床を張るとともに、 1階部分には出札口や売店を新設、ステンレス色の改札口は木製を表現するためこげ茶に塗り、 一部の金属製の扉を木製(紙製)に交換しました。 待合室の部分にはこげ茶に塗った電車用のロングシートを接着、木製ベンチとしました。 事務室にはエコーモデル製の机や椅子等を適当に配置し、 さらに冬期暖房用のだるまストーブの煙突を屋根や窓から出し、 屋根に沿って1mm x 2mmのチャンネルで作った樋を、1mmの線材で作った縦樋とともに設置しました。 樋のあるなしで実感はかなり違ってくるようです。
 この製品はスケールや全体の印象把握は良いのですが、 レジン製であるが故の反りの発生が最大の問題で、 とくにその発生が顕著に見られる一階側壁部分は自作部品と交換することを検討中です。
 跨線橋他の建造物については来月ご説明します。(2005年5月 M.F)