(8)橋梁部の製作

 橋梁部のボードは「(3)台枠ボードの設計、製作」で述べた通り、 他の部分のボードとは川を表現するために構造が異なりますが、 地形などの基本的な製作方法は同じですので、 今回は橋梁や橋台・橋脚と付帯するシーナリー・ストラクチャーの製作、 および川自体の表現等について述べたいと思います。 前述の通り、下り列車は中軽井沢駅に到着する直前に湯川という川を渡ります。 このボードではこの湯川をイメージして川の前後の線路は築堤とし、 大小2連のガーダー橋で川を渡ることとしました。

1.ガーダー橋


 モデルとなっている鉄橋は湯川と川沿いの道に架かっているガーダー橋で、 現在もしなの鉄道の上り線用として使用されています。 実物は途中3箇所に石積みの橋脚のあるやや細めの4連のデッキガーダーですが、 模型では大小2つのガーダーが橋脚を境にしてそれぞれ川の上と道の上に連続して架かっています。 この大小のガーダーは、以前カツミより発売されていた完成品で、 かなり良い出来だったのでレイアウトを作るときのためにストックしていたものです。 ガーダー本体は細かいリベットがエッチングで表現された真鍮製で、 これを橋台・橋脚に載せるための足(支承)、 左右の側板を繋ぐ梁および2箇所の退避所の手すりはロストワックス製です。 この本体については多少ゆがみを修正し、 エコーのウェザリングベンガラで軽い錆を表現した以外は、 ほとんど加工らしい加工はしていません。
 鉄橋上の線路の枕木は、シノハラ製のフレキシブル枕木をそのまま使用することには長さ・高さ (厚み)の両方の点でやはり抵抗がありましたので、 最初は角材から作る方法を検討しました。 しかし2.5mm角の木製角材が入手できなかったため、 ストックしていた同社の発売初期の13mm用フレキシブル線路の枕木 (現在発売されているものは長さが26mmであるのに対して30mmとやや長めで、 偶々実物の鉄橋用枕木の規格2,400mmに合致)を加工することにしました。 まずレールの真下の枕木同士を連結しているプラスティック部分は、 鉄橋の場合横から見た時のシルエットの邪魔になるので、全て切り取ります。 次にこの1本1本ばらばらになった枕木の裏側に幅2.5mmに切った厚紙を貼って高さを加え、 もともとプラスティック成型上の都合からか、 やや下すぼまり(逆台形)になっている枕木側面が垂直になるようにパテで整形し、 断面が2.5mm(実物換算200mm)四方の正方形になるようにしました。 そしてこげ茶色に調合した水性アクリル塗料で塗装して鉄橋用枕木としました。


2.橋台・橋脚・石積み擁壁


 前述のカツミ製のガーダー橋には石積みを表現した樹脂製の橋台・橋脚がセットされていましたが、 形状が湯川のものと違うばかりでなく、その石積みの表現も満足できるものではありませんでした。 そのため他の石積みの橋台・橋脚の市販品も探しましたが、 適当なものがなかったのでやむを得ず自作することとし、 石積みの製作方法についてはかなりいろいろ試作・検討した結果、 最終的に紙粘土で表現することとしました。
 石積みの橋台・橋脚は湯川のものが現存するので実物を採寸し、 設計図を描きました。模型の寸法は全体の高さを低くした以外はかなりスケールに近いものです。 両端の橋台は、まず出来上がり寸法より各側面それぞれ1mmほど小さめに9mm厚のベニヤで組立て、 この表面に先月号の「地表の製作」のところで述べた、乾いても紙の感じの残る紙粘土を練り、 1mm位の厚みになるよう薄く塗り付けます。石の質感を出すため、 軟らかいうちにこの表面に軽石(火山石で無数の空気穴がある物) を紙やすりで平にしたものを押し付けて切出した石を表現し、 これが完全に乾いてから0.5mm厚の金属板の断面を押さえつけて筋目を入れ、 石積みを表現しました。 石積み最上部などの一部にはプラチャンネルを加工したものを使用しています。 2つのガーダー橋の間にある丸みを帯びた橋脚も基本的には橋台と同様の作り方で、 若干小さめに削り出した木製のブロックに紙粘土を塗り付け整形、 乾燥後石積みの筋目を入れて表現したものです。 石積みに使う石は装飾を兼ねているのか表面は結構凸凹していますので、 あまり平滑に仕上げると雰囲気が違ってしまいますので注意が必要です。 橋台に連なる築堤の終端部となる丸石積みの擁壁は、 発泡スチロールを削って芯としその上に紙粘土を1mm厚位に塗り付け、 乾燥する前に3mm径の金属パイプを少しつぶして変形させたものを一つずつ表面に押し付けて、 丸石積みの模様をつけたものです。
 塗装は橋台・橋脚・擁壁とも、 新しい石垣のような灰色に調合した完全艶消しの水性アクリル塗料を塗り、 これが完全に乾いた後、撮影してきた実物のカラー写真を見ながら、 錆色・灰色・土色など数色を薄く溶いた完全艶消しの水性アクリル塗料を 単調にならないように気をつけながら塗り重ねました。なお丸石積みの擁壁のみ、 丸石を一つずつ濃い灰色で着色した後薄く溶いたフラットアースで全体をぼかしました。 なお塗装の際あまり水分を含ませすぎると紙粘土が軟らかくなって膨らんできてしまいますので 注意が必要です。


3.橋梁部の組立て


 橋梁のレイアウトへの組み込みは以下の手順で行いました。 最初に築堤部分に接するように橋台および橋脚を台枠ボード上に仮設置し、 ガーダー本体をこの橋台・橋脚に載せます。この状態で水準器を使って橋台、 橋梁の高さ・傾きなどの微調整を慎重に行います。次に、着色したレールを橋梁部は前述の橋梁用枕木、 築堤部分は普通のフレキシブル枕木を犬釘部分に通します。 これを築堤部分から橋台、ガーダー本体の上を越えて反対側の築堤部分まで通して置き、 両方の橋台部分をスパイクで仮止めします。この状態で車輌による試運転を繰り返し、 レールが築堤部分から橋台、ガーダーを通じてスムーズに連続しているのを確認します。 全て問題なければ、ボード基盤と橋台・橋脚を木工ボンドで、橋台・橋脚とガーダー、 ガーダーと枕木をゴム系接着剤で固定します。その後、 橋台の上から築堤部分にかけての線路にバラストを撒き、橋梁上は護輪レール、 渡り板などを取り付けています。固定レイアウトには共通の悩みのようですが、 完成後に車輌を運転すると、 築堤部分から橋梁部へ入った途端に実物とは反対に急に静かになるのはやや興ざめです。


4.木 橋


 モデルはガーダー橋と同様、湯川に架かっていたやや太鼓橋のような形状の木橋です。 実物は現存しないため、 昔の軽井沢周辺の風景を撮った写真集に載っていた2枚の白黒写真を参考にしながら寸法を推定して、 模型原寸大の設計図を書きました。形状と構造から想像するに自動車は通れず、 せいぜい荷車程度までと思われます。
 欄干とその支柱、橋桁本体、3本の橋脚とも、 各種の国産・輸入精密木製角材・帯板材を使用しました。 まず、加工前に全ての角材・帯板材にステイン液を染み込ませました。橋の太鼓状のカーブは、 構造材用4本の3mm角材と欄干用2本の2mm角材をしばらくお湯に浸けて少し柔らかくしてから、 6本とも設計図通りの同じカーブを得られるように6本一緒に輪ゴムで強く縛り、 少しずつカーブさせ乾燥させました。 後はひたすら設計図に現物を載せてカーブを確認しながら欄干の支柱の帯板材を垂直 (カーブした欄干とは直角ではないので結構面倒)に立て、 構造材を4本縦方向に並べその上に帯板を横方向に貼って橋桁を完成させます。 橋桁は実物にも多少は歪みがあっただろうと勝手に想定して、やや気楽に作業を進めました。 3本の木組みの橋脚は3mmの角材の角を落としたものを使いました。 橋脚はやや不規則な配置で並んでいますが、これは川の水の流れに合わせたためのようで、 実物通りに配置してみました。 丸石積みの橋台はバルサ材のブロックに紙粘土を薄く塗り付けてパイプで型押ししたものです。
 木橋の塗装は灰色・フラットアースなど数色を薄く溶いた完全艶消しの水性アクリル塗料ですが、 実物のカラー写真が入手できなかったため、色は想像によります。


5.川の表現


 川の製作に当たってはまず実物をよく観察しました。水の流れ方、土手の削られ方、 石の転がり方、水際の草の生え方、波の立ち方、 そして水面の色合いなどは頭で考えただけでは分かりませんでした。 川床はベニヤのボードをベースとし、土手部分は発泡スチロール板を成形し、 小石を置き川床とともに紙粘土で細かい表情を付けました。 全体に他の部分と同様ボンドの水溶液を刷毛で塗った後、 プラスターを茶漉しで撒き地表と川底を表現、 地表部分はフラットブラウンとフラットアースを混ぜたもので、川床は濃緑色で着色しました。 また、川床に置く石は水のかかる部分は濃い灰色に、 表に出る部分はバフで白っぽく仕上げておきます。
 ここで水そのものを何で表現するか迷いました。 エポキシ樹脂やレジン等での作り方が雑誌に解説されていますが、 発熱や臭いのことも書いてあり、買って来てはみたものの、 結局使い慣れている木工ボンドで表現することとしました。 木工ボンドは薄めずに川の部分に5mm程度の厚さに刷毛で伸ばしますが、 そのままでは粘度が高く細かい部分に流れませんので、 水を含ませた刷毛で浸透させます。乾燥するとかなり収縮し、 どうしても川の端の部分が盛り上がるようになりますので、 端の部分はやや少なめにボンドを盛り付けます。 乾燥し透明になったら再びボンドを塗り重ねて厚みを増し、 川の流れを考えた上、波立ちを表現すべく表面に川と直角方向に大まかに刷毛で筋を付けていきました。 乾燥後、晴天の夏の日を表現するために、表面にクリヤーのブルーとグリーンで強弱をつけながら着色し、 水が泡立つ部分には筆先に白を含ませた刷毛で泡を表現しました。 完成後に現物を見た時はあまり実感的には思えませんでしたが、 写真に撮ると不思議なことにそれらしく見えるので良しとしています。(2005年4月 M.F)