(10)建造物(跨線橋、給水塔等)および草地・畑・樹木の製作

 今月は先月に引き続き建造物、そして草地、畑および樹木の製作についてご説明します。

A. 建造物の製作

1.跨線橋


 モデルとなった軽井沢駅の3線をまたぐ跨線橋は昭和40年代の初め頃に撤去・新設されたため、 参考となる写真が少ないのですが、 ほぼ同時期の明治40年に設置された横川駅の跨線橋は昭和60年まで残っていましたので、 その実物写真ならびに横川駅に掲示されていた実物設計図を参考にして模型設計図を描きました。 これらの跨線橋は同時代の大・中規模の一般的な跨線橋と同様、橋脚は鋳鉄製で、 構造材・小屋組等の主要部分はT形鋼やL形鋼等で組まれていたようです。 軽井沢駅と横川駅の跨線橋は基本的に極めて似ていましたが、 軽井沢駅のものは冬の寒さのためか窓にガラスが入っていました。 横川駅の跨線橋は実物設計図によると通路の幅が柱間で1,960mm(模型で24.5mm)と 模型的なバランスの観点からやや狭く感じられたのでこれを若干広げて30mm幅とし、 跨線橋本体の柱の間隔もやや広めの23mm(実物は1,700mm)としました。 この跨線橋は実物のレール面から跨線橋下部までの高さ(クリアランス) が古い時代にしてはやや大きめですが、 これは明治時代より駅構内にはアプト式電気機関車のための架線が張られていたためです。 模型のクリアランスは約65mmとってあり、 この寸法で殆どの車両はパンタグラフを上げたままぎりぎり通過することが可能です。
 模型の構造は、まず線路上に架かる跨線橋本体の部分は構造材として 側面下部に1x2mmの洋銀製チャンネルを使用し、縦の柱は1.5mmおよび1mmの洋銀製角材で、 また窓部分下部は1x1mm、上部は2x2mmのアングルを使用し、それぞれを半田付けで組み立てました。 側面腰板部にあるX字の補強材は0.8x0.8mmのアングルおよび帯材を半田付けしました。 組み上がった二枚の側面は左右を1mmの角材で柱ごとに繋いで箱状にします。 屋根は強度を必要としないので木製の3mm角材を軸にエコーモデルの真鍮製波板を張り、 屋根全体は塗装時のことを考慮し取り外し可能としました。 階段室は上下部の構造材および柱は1.5mmの洋銀製角材を、 窓枠は1mmの角材を半田で組み立てた後左右側面を繋ぎ箱状にします。 この部分は垂直に固定する部分が少ないので、歪みなく組み立てるのに神経を使います。 階段部分は3mmの木製角材を階段状に並べ、屋根は本体同様波板を貼り付けました。 階段室の下部には所謂稲妻型の補強材が入っていますので、 実物とは多少形態が異なりますがプラスティック製のそれらしいものを接着してあります。 骨組みはできるだけスケールを重視し、細い材料を使用したので強度的にはやや不安がありますが、 取り扱いに気をつければ問題はないようです。 木製の腰板部はボール紙にエコーモデル製のSTウッドを張ったものです。 ここまでは比較的順調に作業が進められましたが、 独特の形状をした8本の鋳鉄製の橋脚は装飾や上部のテーパーのついた円筒部分があり、 この複雑な形状のものを8本製作するのは気が重く、どうしたものかと思案していたところ、 運よくモデルワークス社から跨線橋のキットが発売され、 その橋脚がそのまま使えそうなので多少高価でしたが購入して利用しました。 この橋脚はホワイトメタル製で少し高さが高かったため上部を切断し、 橋脚間にX字に補強の線材を入れ接着剤で組み立てました。なお運搬時のことを考え、

跨線橋本体と橋脚部分は分解可能としてあります。 またホーム上には橋脚が入り込むコンクリート部分および階段の最初の二段を設置しています。 なお窓部分にはまだガラスは入れていません。
 塗装は軽井沢駅の跨線橋のカラー写真がなく、また記憶も定かでないため、 とりあえず側面は横川駅の跨線橋の末期の色であるクリーム色(横須賀線のクリーム色) をスプレーで吹きつけ、スレート屋根の波板部分はストーン調塗料で着色しました。 まだウェザリングしておらず線路など周囲の景色から浮き上がって見えますが、 そのうち汚すつもりです。

2.給水塔


 以前にも書きましたように、現在の駅構内の敷地には煉瓦造りの機関庫やターンテーブル、 給炭台、給水塔等の諸設備を設置するスペースは含まれていませんが、 将来敷地が確保できた時のために少しずつそれらのストラクチャーを製作してゆこうと思っています。 それらの中でまず給水塔を作りました。 軽井沢駅は長野側からの蒸機の終着駅だったために大型の給水塔が設置されており、 蒸機廃止後も昭和50年頃までは残存していましたが、いつの間にか姿を消してしまいました。 この給水塔は「十人十色」に掲載した写真のように、 円筒形の煉瓦積みの本体の上に鉄製のタンクが置かれているもので、 なかなか好ましい形をしていました。
 模型は珊瑚模型店製の煉瓦造りの給水塔をほとんどそのまま組み立てたものです。 実物に比べて煉瓦積みの部分の高さが高く、タンク部分が小さ目となっている他、 スケールの点からは煉瓦1つ1つがやや大き過ぎますが、全体の形態が良いので代用しています。 組み立ては強度をあまり考える必要がないので、エッチング板、 ホワイトメタル製の部品を主にエポキシ樹脂の接着剤で組み、半田付けは使っていません。 塗装は屋根とタンク部分は艶消しの濃い緑色のエナメル系塗料の手塗り、 煉瓦積みの部分は赤・黒・錆色等を適当に混ぜた完全艶消しのアクリル塗料を手塗りした後、 水で湿らせた指先にタルカム・パウダーをつけて目地部分に塗り込み、 煉瓦積みがノッペリとならないようにしてみました。最後に全体を汚してあります。

3.カルヴァートなど


 ストラクチャーの範疇に入るかどうか分かりませんが、 当レイアウトには築堤の下など数箇所に石積みや煉瓦積みのカルヴァートや歩行者用トンネルがあります。 これらは兄がニューヨーク勤務中にマンハッタンの模型屋で仕入れたどこ製か分からない、 かなり怪しげなプラスティック製・レジン製・石膏製のHO用・9mm用のストラクチャーのパーツを 適宜加工して利用し、アクリル塗料で着色・ウェザリングしたものです。 煉瓦積みのカルヴァートは目地を表現するためフラットホワイトで着色した上、 グンゼのウェザリングカラーセットの錆色をドライブラシで塗りました。 更に薄く溶いたモスグリーンを垂らし彩度を落としました。 私もニューヨークへ出張した際にその模型屋へ連れて行ってもらいましたが、 このようなレイアウト用の部材が数多くそろっており、さすがにレイアウトの本場です。

B. 草地・畑・樹木の製作

1.草地


 実物の風景を観察しますと、人間が使っている住居や畑・道等以外の部分は、 通常は雑木林のままかあるいは雑草で覆われた草地となっています。以前、 地形・地表の製作で書きましたように、まず地表にプラスターの粉末を撒いた後、 茶系統の色で地面を着色します。この工程が済みましたらいよいよ草地の製作にかかります。 草地には主に米国ウッドランドシーニックス社のフォーリッジ、コースターフ、ターフを使用しました。 ヨーロッパや国産の製品は私には原色が強すぎるように感じられましたが、 同社の製品の色合いは比較的くすんでおり落ち着いた仕上がりになるので愛用しました。 散布前に明緑色と緑色のフォーリッジと枯草色のコースターフを適宜大きな容器で混合し、 色合いに変化を付けます。草地を丁寧に観察しますと夏であっても前年の枯草が結構目立ち、 また同じ緑であっても草の種類によりその濃淡があるので、 いくつかの種類を混ぜた方が雰囲気が出るようです。
 散布に当っては、あまり大きな面積を一度に撒くと作業が雑になりそうなので、 10cm平方ぐらいずつの単位で作業を行いました。 まず着色済みの地表に1:1くらいの割合で溶いたボンドの水溶液を刷毛で塗り、 その上に混合済の草を撒きます。 この際あまりきちんと撒くとのっぺりとした平板な感じになってしまいますので、 場所によっては土の部分が見えるようにしたり、所によっては少し盛り上げたりし変化を付けました。 散布が終わりましたら、鶴口に入れたボンドの水溶液を上から垂らし固着しますが、 水溶液は少なめにし、押さえつけても草が弾力で戻って来る程度にしておきます。 未舗装の道路や犬走り等の地面が直接見える部分と草地の境目は、 ターフの「緑色ブレンド」を撒き草地が突如始まるような違和感を抑えました。 更に場所により緑色等のフォーリッジクラスターで高さをつけることにより、 こんもりしたブッシュを表現してみました。未舗装道路の車輪に踏まれない中央部分は蒔絵の要領で、 草のある部分に細い筆でボンドの水溶液を塗り、 ターフを適当に撒いて乾燥後吹き飛ばすと中央部のみ草が残ります。
 この程度の大きさのレイアウトになりますと草を撒くだけでもかなり時間がかかりますが、 土色1色のレイアウトに緑が加わると急にレイアウトが生き生き見えてくるのは不思議です。

2.畑

 このレイアウトには水田はありませんが、以前に書きました通り畑をたくさん作ってしまいました。 畑の周囲の畦道は主に4mm厚のコルクで表現し、畑の畝は3mmの竹ひごを使って形作り、 紙粘土で形を整えた上、地表を作る時と同じ要領でボンドの水溶液を刷毛で塗り、 プラスターの粉を茶漉しで撒きました。畦道は通常乾燥しているのでバフとフラットアースで、 畝は湿っていますのでフラットブラウン等で着色、あとは作物を植えるだけとなっています。 軽井沢周辺は何といっても高原キャベツやトウモロコシが主な作物です。 昭和30年代はまだレタスはあまり栽培されていなかったように思います。 実はこの連載を始めた時には、 畑の製作法が掲載される予定の今頃までには既に作物が植わっている予定でしたが、 キャベツもトウモロコシもいざ作る段になると異常な数を作らなければならないこともあり、 大量生産の良い製作法が思いつかず、未だに何も生えていません。 どなたか良い製作法をご存知の方が有りましたら是非ご教示下さい。

3.樹木


 このレイアウトでは運搬・保管時にボードを重ねるため、 ボード上の高さが最大で30−45mmしか取れないため基本的に高い樹木は植えられないのが難点です。 唯一高さが多少取れる場所は駅構内の反対側の直線部のボードで運搬時に上に重なるボードが 他よりも短いボード、つまり軽井沢方から2枚目の直線部のボードで、 上部にボードがない部分だけ高さが90mm弱確保できます。軽井沢周辺にある樹木、 とくに林を形成している落葉松などは東京の小さな公園などで見かける木と違い 高さが20−30mもありそうで、模型にしても30cm前後の高さがないと格好がつかないので諦め、 このスペースに小さな雑木を作ることにしました。 ノーブルジョーカーには実感的模型樹木作りの権威、N.I.がおりますが、 私はその技術・センスともに持ち合わせていませんので、 残念ながらウッドランドシーニックス社の広葉樹のキットを使うことにしました。 このキットは購入時には枝が千手観音のように平らになっていますので、 できるだけ自然な格好を目指してこれを立体的に整形してゆきます。 その後、幹や枝をフラットアースやブラウンで着色し、 乾燥したら枝にボンドを塗り明緑色や緑色のフォーリッジを接着します。 この際できるだけ透けて見えるようにフォーリッジを伸ばしながら広げるようにし、 固着後さらにボンドの水溶液をフォーリッジ上に塗り、 その上から緑色のターフを撒くことにより変化を付けてみました。
(2005年6月 M.F)