2. 模型店別車輌発売状況

2-3 カツミ模型店(3) −電車・気動車・客車・貨車−

 今回はカツミが1960年代に発売した機関車以外の車輌についてご案内したいと思います。

1.電車
 1950年代末より日本型のHOスケールの機関車を発売してきたカツミは、 1963年(昭和38年)初めての編成物としてキハ82系を発売、 同じ年にその後の国電シリーズの第1弾となる111系を発売し、 直ぐに103系の販売も開始しました。 1964年(昭和39年)には前年に実物が活躍を始めたばかりの165系を早くも製品化しました。 同年にこれも実物が運転を開始するのとほぼ同時に新幹線の0系を発売しました。 その後暫く新製品はありませんでしたが、 1967年(昭和42年)に活躍を始めた581系を翌1968年(昭和43年)に製品化しています。
 これらの製品群はそれまでの編成物の定番であった電動車に1個モーター2軸駆動の動力から、 新幹線車輌を除き全て2個モーター全軸駆動とし、 十分な牽引力を得ることが出来るようになりました。 ディテールはさほど多くはありませんでしたが、 当時の他社の編成物に比べ模型としてのセンスの良さが感じられ、 強力で頑丈な下回りと相まって運転会の花形として大活躍しました。 これらの電車シリーズは全て塗装済完成品として発売されました。

165系
カツミ模型店 165系

カツミ模型店 クモハ165

カツミ模型店 モハ164

カツミ模型店 クハ165

カツミ模型店 サロ165

カツミ模型店 サハシ165

  発売年:1964年(昭和39年)
  販売価格:塗装済完成品
    クモハ165 − ¥2,500
    モハ164(動力車)− ¥3,400
    クハ165 − ¥2,400
    サロ165 − ¥1,850
    サハシ165 − ¥1,850

 カツミの初期の広告を見ますと当初153系の製品化が予定されていたようですが、 同形式は既にカワイと鉄道模型社で発売されていたためか、 上記のとおりカツミの国電シリーズ第三弾として1964年(昭和39年) 勾配線区向けの急行用165系が製品化されました。 基本的なつくりは前年に発売された111系や103系に準じており、 車体は比較的厚手の真鍮板を客用ドアやサボ受け、雨樋なども一体でプレス加工し、 同じくプレス加工した前面部分と半田により組み立てられていました。 アルミサッシの窓枠は111系や103系では車体と一体にプレスされ銀色に塗装されていましたが、 165系では別途プレス加工の上銀色メッキされた窓枠を別貼りにしたため、 何か高級になったような感じがするとともに、実感味も増しました。 ただドアは他の国電シリーズと同様プレス加工で表現していたため、 多少立体感に欠けていました。 サロ165のアルミサッシは銀色の塗装によるものでしたが、 サンバイザーにはクリアーな紺色で彩色しプラスティックの質感を表現していました。 実物もまだ冷房装置が取り付けられていなかったため、 サロを含め非冷房の姿を模型化しています。 屋根上のベンチレーターはプラスティック製ですが、 クモハの空気取入口は真鍮部品の組立でできていました。 前面部はプレス加工で、前照灯は真鍮挽物を別付けにして比較的すっきり表現されており、 適度に手すり類やジャンパー線受けが取り付けられています。 タイフォンカバーまで一体プレスで表現したのは少し無理があったようで やや甘い印象がありましが、幌枠は銀色に塗装された板を別貼りとして、 全体の表情を引き締めていました。 ドアやトイレ窓等のHゴムはプレス加工の表現の上に烏口で塗装したもので、 乗務員室の窓や扉のアルミサッシは銀色で塗装されています。
 床板は鉄板で、運転時に問題はありませんでしたが、 電動車では分解するとモーターの磁石が吸いつけられて驚きます。 前述のようにモーターはモハ164にDV18Cが2個ずつ搭載され、 ギア比14対2のウォーム+一部にデルリンを使用して騒音を抑えたインサイドギアで 伝導しています。比較的大きなウェイトと相まって、十分な牽引力を得ていました。 台車はDT32とTR69をドロップで新製し、 DT32ではやはりドロップ加工したブレーキシューを 別部品として車輪のタイヤ面と同一面に取り付けたため実感的でしたが、 その特徴のブレーキシリンダーは省略されていました。 床下器具は各機器がダイキャストで製作され、 形態等に不満は残るものの部品点数も多く床下を引き締めています。 特筆すべきは前照灯・尾灯・室内灯の配線が車体に取り付けられたラグにまとめられ、 床板上面に取り付けられた接点と接触するようになっており、 床板を取り外したときに車体と下廻りが完全に分割できたことでした。 完成品ではその必要性が乏しいかもしれませんが、 上下を分解するときには便利な構造でした。 中間連結器はキハ82系から使用が始まったカツミ独特のドローバーで 使い勝手の良いものでした。
 いずれにしても165系を初めカツミの国電シリーズは その電気機関車群と同様ディテールは程々ですが、 丈夫な構造と良く走る足廻りでどこの運転会でも活躍していました。
 写真のサロ165は小高のプラスティック製の冷房装置を取り付け、 サハシ165はサハシ169をイメージして台車をTR58に履き替えています。

0系(新幹線)
カツミ模型店 新幹線0系

カツミ模型店 新幹線0系22形式

  発売年:1964年(昭和39年)
  販売価格:塗装済完成品
    21形式 − \2,650
    16形式(動力車)− \2,340
    35形式 − \1,630
    22形式(動力車)− \3,370

 1964年(昭和39年)夢の超特急「東海道新幹線」が開業したのとほぼ同時に、 カツミはその0系車輌4形式を発売しました。この素早い製品化は驚嘆に値しますが、 やはり早い段階での設計の故か一部の窓が実物と異なっていたようです。 実物が標準軌のため、 日本型としては初めて本来のHO(1/87で16.5mm)の模型として製造されましたが、 16番(1/80で16.5mm)の車輌と比べても大きく、標準軌車輌の大きさを実感したものでした。 この製品は旧来の鉄道模型ファンの購入をあまり期待していなかったのか、 比較的初級者向けに作られたようで、ディテールはさっぱりしており (実物も少ないですが)初期の製品では床下器具は全て省略されていました。 車体は屋根上のベンチレーターなどをエッチングで美しく表現した真鍮板を ドアも一体でプレス加工し、印象把握上重要な先頭部はプラスティック製の鼻をつけ、 全体はプレス加工でよく実感をつかんでおり、車体と乗務員扉のところで継いでいました。 パンタは実物を模した小ぶりのものですが折りたたみは出来ず固定です。 台車はドロップで新製し、 車輪の輪心部はディスクブレーキのディスク部分も表現した凝ったものでした。
 この製品は他の国電シリーズと異なり、1台おきにモーター付となるため、 電動車は1個モーター方式となっています。

クモユニ74
  発売年:1964年(昭和39年)
  販売価格:塗装済完成品 \3,300

 カツミの国電シリーズの中で唯一単独の製品としてクモユニ74が 1964年(昭和39年)に発売されました。 本製品の基本的なつくりは他の国電シリーズと同じですが、 台車はドロップ製のDT13を履き、トレーラーを引く必要がないため1個モーター方式です。

カツミ模型店 クモユニ74

2.気動車
 カツミは国電シリーズの発売前に初の箱物として1963年(昭和38年)、 気動車で人気のキハ82系を発売、引続き翌年にはキハ35系の900番台を製品化、 その後暫くカツミから気動車の発売はありませんでした。

キハ82系
カツミ模型店 キハ82系

カツミ模型店 キハ82

カツミ模型店 キハ80

カツミ模型店 キロ80

カツミ模型店 キシ80

  発売年:1963年(昭和38年)
  販売価格:塗装済完成品
    キハ82(動力車)− \2,700
    キハ80 − \1,400
    キロ80 − \1,400
    キシ80 − \1,400

 1963年(昭和38年)カツミは初めての編成物として、 1961年(昭和36年)から全国を走り始めた特急用気動車キハ82系を発売しました。 車体は厚手のしっかりした真鍮板にドアやサボ受等をプレスで表現し、 前面部と半田で組み立てられています。前面はキハ82のハイライトというべき部分ですが、 プレスで加工した本体にプレス加工品のタイフォンカバーやヘッドライトカバーを取り付け、 運転室パノラミックウィンドーの窓枠も別に真鍮線を半田付けして表現しています。 さらにドロップ製のジャンパー線受けやワイパー、手すり類を取付け、 銀色塗装を施した幌枠を別貼りして前面を引き締めています。 連結面間の幌枠は簡単な真鍮帯板の加工品でした。 キハ82の機関室のルーバーやキシ80の側面の通風口等は別にプレス加工した部品を 裏から別貼りして立体感を高めていますが、 これに対してプレスで表現されたドア部はやや立体感に欠けていました。 トイレの窓桟は真鍮線を半田付けして表現するなど手の掛かったことをしています。 独特のキノコ型のユニットクーラーはプラスティック製で、 キロの屋根上の水タンクや換気口は真鍮のプレス製、 キハ82の機械室屋根上の排気口は中に網を張り精密感を高めています。
 床板は厚手の真鍮板で、個々の床下機具取り付けのための穴が多数開けられています。 床下器具はソフトメタル製で部品点数はかなり多いもののディテールはかなり荒っぽいもので、 その重量は動力車にはウェイトとしての効果がありましたが、 付随車もかなり重いものになっていました。 初期の製品では床下器具が線路面と接触するのを避けるためか、 車高がスケールよりも2mm近く高くなり、形態を乱していました。 台車は良好なドロップ製ですが、TR58の流用のためブレーキシリンダーは表現されていません。 モーターはキハ82の先頭側に各1台ずつ搭載され、 ウォーム+プレスでチャンネル状に加工した枠に取付けられた特製の インサイドギアで伝導していましたが、 ギア比が13対1であったためあまりスピードは出ませんでした。 先頭部はベーカー形の連結器でしたが、 中間部はこの製品から採用されたカツミ独特のドローバーを装着しています。 このドローバーは連結の向きを選ばず、 折畳み時も無理なく床下に収納できる良好な設計のもので、 その後のカツミの編成物に標準装備されて長く使用されました。
 塗装はラッカー塗装仕上げで、その初期製品の色調は、 赤がややどぎつくなりクリームが黄色っぽくなった2次製品以降の色調に比べると 実物により近く感じられ、筆者の好みでした。 連結面の貫通幌枠のみ薄い空色で塗装されていました。
 発売時にはキハ82が2輌と他の型式を1輌ずつ、計5輌をセットにして販売、 ばら売りもしていたので実物どおりの6輌編成を組むことも可能でした。 このキハ82系はその後のカツミの編成物の基礎になった製品ですが、 初期の製品は多分に手作りの部分が感じられる温か味のある製品でした。 その後製造の合理化を優先したためか、 改良された部分があると同時に徐々にその温か味は失われたようでした。


キハ35・900番台
カツミ模型店 キハ35・900番台

カツミ模型店 キハ35の伝導機構
  発売年:1964年(昭和39年)
  販売価格:塗装済キット モーター付き ¥3,300
                 モーターなし ¥2,400

 1964年(昭和39年)、当時実物が試作的に採用を始めたステンレス車体を持つ、 通勤用キハ35の900番台をカツミが製品化しました。 車体は真鍮板にコルゲートを美しくエッチングで表現し半田で組み上げたもので、 印象把握も良くすっきりした印象を持っています。外吊りの客用ドアは別張りですが、 実物でやや後ろに折れ曲がり引っ込んでいる下部は大胆にも省略したため、 ドアが中ほどで切れたような格好になっているのは残念でした。 しかしこの車体の最も注目される点は銀色塗装にせずメッキ仕上げにしたことで、 実物のステンレス車体の印象をよく表現しており好感が持てました。
 ドロップ製の台車を履いた下廻りは、 日本型箱物製品ではおそらく初となる床下モーター方式を採用していました。 棒型のDH13モーターを床下に吊り下げ、 ビニールチューブを介してジョイントで片方の台車の1軸に14対2のウォームギアで伝導した上、 他の軸にはインサイドギアで動力を伝えています。 なかなか意欲的な設計で現在のMPギアの原型を見るようですが、 実物の気動車の動力装置と相通ずるものがありファンの心を惹きつけました。 ただ試作的要素も強く、スムースな走行にはそれなりの調整を必要としたようです。 床下器具はキハ82系同様ソフトメタル製で余りディテールはありませんでした。
 いずれにしてもこの製品はメッキ仕上げによるステンレス車体の表現や、 床下モーターによる伝導機構など意欲的な製品で、高級ファンに歓迎されました。


3.客車
 1960年代カツミは古典2軸客車と、これとは対照的な20系特急用客車を製品化しました。 どちらも所謂高級製品を狙ったものではありませんでしたが、 20系は当時どこの運転会でも同社のFE60や様々な機関車に牽引されて走り回っていました。

古典2軸客車
カツミ模型店 古典2軸客車

  発売年:1962年(昭和37年)
  販売価格:塗装済完成品 ハ・ハフ・ニ 各\490

 150型(一号機関車)を発売していたカツミはそれに牽かせる車輌として古典の2軸客車、 所謂マッチ箱を1962年(昭和37年)に発売しました。 このモデルはスケールに拘ったものではないようですが、一号機関車にはぴったりでした。 車体は真鍮板にエッチングで美しくドアやリブを表現し、ニはやや明るい茶色、 ハ・ハフは茶色に塗装されています。
 下廻りは軸箱と担いバネが一体でドロップにより表現され、 実際の車軸は車体幅方向にチャンネル状にプレスした板で受けています。 このプレスした板は、1軸は固定されていますが、他の軸はガタを持たせて3点支持方式となり、 2軸車としての走行性能は良好でした。端面のバッファーは挽物製です。


20系
カツミ模型店 カニ22

カツミ模型店 ナロネ22

カツミ模型店 ナハネ20

カツミ模型店 ナシ20

カツミ模型店 ナハネフ23

カツミ模型店 ナハネフ22

  発売年:1965年(昭和40年)
  販売価格:塗装済完成品
    カニ22 − \3,000
    ナロネ22 − \1,650
    ナハネ20 − \1,650
    ナシ20 − \1,650
    ナハネフ23 − \1,650
    ナハネフ22 − \1,950

 1965年(昭和40年)、 当時ブルートレインとして大活躍していた人気の20系特急型客車を発売しました。 実物では座席車を含め多くの型式がありましたが、 カツミではその中の代表的な寝台車群を製品化しました。カニ21やナロネ21など、 より一般的な型式を発売しなかったのは実物の形態の面白さを優先したからだと想像されますが、 実物どおりの編成を組むのには難がありました。 車体は真鍮板プレス加工で窓枠のHゴムや雨樋等を表現し、 客用扉はプレス製のパーツを半田で組み立てています。 この客用扉の窓は何故か実物より幅が広く上下が短いため印象が違うものになっていました。 またナハネフならびにナハネの増備車に見られた特徴のある2つに分かれた通路側の非常用の窓が 通常の1つの窓で表現されており、スケールモデルとしてみた場合は不満が残りました。 妻板は縦樋や配電盤のカバーをプレス表現したもので、ボディーに半田で組まれています。 客用扉の無い側の妻面は貫通扉に銀色メッキした板を使用しており,高級な印象を与えています。 深い屋根は一体プレスできれいに表現され、 カニ22の屋根のみプラスティック成型により ファンやベンチレーターなど細かいディテールを表現し、 特徴であるパンタグラフや避雷器を載せています。 カニ22やナハネフ22の端面は曲面がプレスで美しく表現され実物の印象を良くつかんでいます。
 床板は鉄板を使用し、台車はカニ22のみドロップ製のDT21を流用、 他の型式はダイキャスト製のTR55で、ブレーキ関係の表現はありません。 床下器具はカニ22のみダイキャスト製の床下器具を適当に配置し、 その他の型式は同一のプラスティックの一体成型品を使っています。 カニ22とナハネフ22の両端部はベーカー型カプラーを使用していますが、 中間部はキハ82から採用されたカツミのドローバーを使っており、  床板には連結方向の表示がなされています。
初期の製品の塗装は比較的艶があり、 烏口で入れられる3本のクリーム色のラインも後の製品より幅がやや広くくっきりしており、 筆者の好みでした。 窓枠のHゴムは1つずつこれも烏口で美しく青味がかった灰色で表現されていました。 その後発売された2次製品では実感を重視してか全体の艶を落としていますが、 花形の特急車輌は艶がある程度あったほうが良かったのではないかと思います。
 写真のナロネ22・ナシ20・ナハネフ22・23は初期の製品でほぼ発売時のままですが、 カニ22とナハネ20は2次製品で、台車は日光製に、 カニ22の床下器具は小高のプラスティック製に交換しています。
 1969年(昭和44年)にはナロネ20とナロネ21が既製品と同様の仕様で追加され、 作れる編成に自由度が加わりました。その後更に各型式が順次追加発売され、 現在に至るまで40年以上にわたり基本設計を崩さずに連綿と販売されているのは 驚くべきことと思います。


4.貨車
トム50000・ワム90000
  完成品
  トム50000 販売価格:\250 発売年:1963年(昭和38年)
  ワム90000 販売価格:\360 発売年:1969年(昭和44年)

カツミ模型店 トム50000

カツミ模型店 ワム90000

 1960年代に販売されていた貨車は、 天賞堂製を除いては真鍮あるいはブリキ製でスケールに問題のあるものも多く、 あまりディテールも無いなど、他の車輌群に比べ進歩の少ない車種でした。 当然良質のプラスティック製の貨車の発売が待たれましたが、 カツミは1963年(昭和38年)木造の無蓋車トム50000をプラスティック成型で発売、 暫くして1969年(昭和44年)には当時一番身近であった有蓋車ワム90000を製品化しました。 どちらも車体はプラスティックの一体成型で細かいディテールや手すりを適度に表現し、 トムでは断面部の肉厚がやや厚かったものの全般に良好な仕上がりでした。 ワムの屋根はキャンバス張りを表現し梨地になっていました。
 下廻りは軸箱と担いバネを一体でプラスティック成型し、 実際の車軸は鉄板をプレスで折り曲げた軸受けで受けていましたが、 同社の古典客車のような3点支持方式にはなっていませんでした。 他社製品同様ブレーキ関係のディテールは一切省略されています。 ワムは台枠の上下寸法が大きくやや形態を乱していましたが、 全体のスケールや印象把握は他社の製品に比べて良好で、 また値段も手頃であったため多くのファンに喜ばれました。
 写真のトム50000は下廻りをディテールアップしたものです。


(2007年11月 M.F)



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